探偵と老人
マクドナルドの隅の席に向かい合った男ふたり。
声が異様に大きい三十代くらいの方は探偵で、もう一方の老人は投資詐欺にあって金をとられた被害者だと、聞こえてくる話の内容からすぐにわかった。
こういう事件はマスコミ経由ではよく聞いているが被害者の実物を見るのははじめてだ。ははん、こういう人物が、いくらだか知らないが、欲の皮が突っ張ったために少なからぬ額を失いかけているのだなと思いながらその人物の服装とか風体とかをうかがっている。たいして金持ちにはみえないがこういう人物が実は金を持っているのだ。勉強になった。
話の内容からすると犯罪は完成していて、おそらく金は戻ってこないだろう。しかし探偵は金を取り返せると力説している。ほんとうだろうか。わたしには無理に思えるが、探偵はこういう事件のプロだといっているので彼の判断が正しいのかもしれない。
探偵は彼の会社に依頼するようくりかえし促すが老人の態度はいまひとつはっきりしない。自分が被害者であることがわかっているのにそれを直視したくない、認めたくないというふうにもみえる。欲が生んだ失敗を人間は認めたくないものなのだ。また勉強になった。
こういうやりとりが際限なく繰り返されるうち、やがて彼らがふたりそろってわたしの脳髄にぐいぐいと入り込んできて居座ってしまった。迷惑なはなしだが聞き耳を立てていたわたしが悪い。
だがちょっと見たかぎりでも大声での会話はわたしだけでなくまわりの客たちに影響を与えはじめているようだ。彼らもまた脳内に住みついてしまったこの事件の細部に興味を持ちながらも辟易しているのがかんじられる。会話は彼らの周囲の客を飲み込んであたりの空間までを支配してしまった。
わたしはといえば大きな異物が頭のなかにできたようでじゃまでしかたがない。彼らが私の頭のなかで議論しているので自分の思考に集中できない。
結局老人は探偵に依頼をしなかった。探偵に対する猜疑心が勝利したらしい。その猜疑心をもう少し前に別の状況で生かしていたら大枚を失うことはなかっただろうに。
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by hatano_naoki | 2011-07-26 18:43 | 日日
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