DC-Cam(Documentation Center of Cambodia)の制作したドキュメンタリー映画、"The Khmer Rouge Rice Fields: The Story of Rape Survivor Tang Kim"(2004年制作)を見た。
「ポル・ポト政権下の性暴力を生きぬいて」という日本語タイトルがついている。 ポル・ポト時代にレイプを体験した女性のドキュメンタリー作品で、30分ほどの小品だがいい作品だと思った。監督は女性のラチャナ・パット。 ポル・ポト時代に起こったレイプは、被害者のほとんどがレイプの直後に殺害されたためにその実態はよくわかっていない。この作品に登場する女性、Tang Kimは殺害を免れた稀な例だといえるだろう。 彼女は数人の女性と共に水田のあぜのようなところでレイプされ、彼女以外は殺されてしまう。そのときの状況を語るのは彼女の故郷であるコンポン・チュナン州の、レイプの現場にそっくりの水田地帯のどこか。あまりにも美しい水田の光景だ。 この作品のそこここに、こういうカンボジアの田園の光景が挿入されている。それを見る私は自分の肉体にカンボジアの記憶が刻み込まれていることを生々しく思い出す。それはたとえば砂糖椰子の林だったり、広がる水田だったり、赤土の田舎道だったり、茶色に濁った小川だったり、あるいはそういう風景を吹き抜けるなまぬる微風だったりする。 主人公であるタン・キムの告白はそれほど具体的なものではないので、ポル・ポト時代についてあまり知らない人々は告白を聞くだけでは状況をそれほどイメージできないかもしれない。 印象的だったのは、彼女の証言の中でレイプの現場から逃げて他の村に行き、名前を変えて隠れていた主人公をクメール・ルージュが探す下りだ。レイプの現場から逃走したにすぎない若い女性ひとりをも執拗に捜索する様子にクメール・ルージュのおぞましさを改めて思い知る。 クメール・ルージュを許さないという彼女のことばを通じて、こういう意識がポル・ポト時代を生きた人の中にいまだに生きていることが確認できる。 一方で多くの人々が当時を忘れたいと思い、今の政権は昔よりはまだマシだと思い、クメール・ルージュは復活するかもしれないと本気で恐れている。事実、タン・キム以外に当時のレイプ被害について証言する人は現れていないという。 レイプ体験を話すというのは過酷な試練だ。しかもその記憶は多くの肉親の死、多くの殺人の目撃の記憶と結びついている。彼女の場合、語り始めるまでに28年の時間が過ぎている。しかも映画を撮るという目的のために説得を重ねた結果としての告白であって、まったくの自発的な告白ではない。彼女の中には告白した結果クメール・ルージュに殺されるかもしれないという恐怖が生きていた。最終的に彼女は出家して尼僧となるが、映画の中での告白が彼女を尼僧への道に導いた一因であるような気がしてならない。 2006年1月29日、青山学院大学にて。会場は偶然にも模擬法廷だった。 主催はアジア女性センター。 (写真上:同作品のDVDパッケージ写真 写真下:監督のRachana Phat) Documentation Center of Cambodia アジア女性資料センター
by hatano_naoki
| 2006-01-29 20:25
| カンボジア
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