倉橋由美子著「パルタイ」と書き出しのこと
先日、「ミステリの名書き出し100選」(早川書房)という本を立ち読みした。
本の書き出しの部分に関するウンチクは、たしかにそれだけで本を書きたいと思わせるくらい面白いテーマではある。ミステリの書き出しが特にひねってあるかどうかは別として、楽しい立ち読みであったことはたしかだ。
ところで、私にとって書き出しが印象に残っている小説はなにかと思い起こしてみると、そのひとつは「パルタイ」だった。

ある日あなたは、もう決心はついたかとたずねた。

こう書き出される「パルタイ」の作者は当時明治大学大学院に在学していた倉橋由美子で、書かれたのは1960年、安保闘争の年である。パルタイ(Partei)とはドイツ語で党、党派を意味する。当時の文脈では日本共産党を意味していた。
私がこの作品を読んだのがいつだったかは忘れたが、初めて読んだときの少しざらついてしかし透明感のある文学っぽい肌触りの心地よさを今でもよく覚えている。60年安保の世代ではなく、むしろ70年安保の世代である私は共産党にも共産主義にも胡散臭さを感じていたが、この作品のかもし出す世界を少し胸が裂けるような気分で読んだ。それは青春というものの反映のせいかもしれない。共産主義が戦後の青春と重なっていた時代があった。

翻って私の書こうとしているものの書き出しのことである。
どのように書き出そうか、どんな文体で、どんな空気で書こうかとここしばらく考えている。特に書き出しに凝ろうとは思わないが、書き出しはある程度作品全体を規定するともいえるから、いい書き出しにしたいとは考えている。いずれにせよ、まだ迷いが続く。
[PR]
by hatano_naoki | 2006-12-29 18:08 | 日日
<< オリジナルプリントのある部屋 沖縄勉強ノート(92)上原栄子... >>