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「アールデコの建築」(吉田鋼市著)
アールヌーヴォーとかアールデコとかいうことばはずっと以前から聞いて知っていたが、その定義とか変遷とかについてはまったく疎かった。
ところが最近見つけた「アールデコの建築」(吉田鋼市著、中公新書)は実に明快にこれらの誕生と変遷について教えてくれた。
そこで気がついてみると、東京の古い建物でこれはいいなと思うものの多くはアールデコであり、同様に東南アジアにも多くのアールデコ建築が現存しているのだった。
たとえばプノンペンの中央市場(プサートメイ)はアールデコだという。プサートメイが生まれるまでの歴史的経緯はなかなか面白いのだが、更にその建築様式を理解するならば世界的な潮流の中でのこの建物の運命を知ることにもなり、興味と理解が立体的になってくるのを感じる。
建築には興味があるものの様式について勉強などしたことがなかった私は、この本からアールデコに関するいくらかの知識を得ながら、自分がかつて見たことのある印象深い建築物をなつかしく思い起こす。アールデコは今から見れば情緒に富み、人間的で、現代に対する批評的存在でもあるように思われる。

ある出来事、状況、思潮、その結果にあとから名前をつけ流れをつけて一貫した歴史を組み立てる。多くの場合、名前はあとから付けられる。
では私自身の状況と作り出そうとしている何ものかは、あとになってどんなふうに名づけられるのだろうか?名前をつけられて整理され歴史の体系に組み込まれる前の状態をどう理解して仮の歴史に組み込むかはちょっとした知の冒険である。これこそが「今」に関わる醍醐味なのではないか。
そんなことをちょっと考えた。

写真はプノンペンのプサートメイ。
「アールデコの建築」(吉田鋼市著)_d0059961_0233480.jpg
by hatano_naoki | 2005-09-10 09:34 | 日日
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