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沖縄勉強ノート(45)「ニライカナイからの手紙」(熊澤尚人監督)
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「ニライカナイからの手紙」(熊澤尚人監督、2005年作品)はなかなかいい映画だった。
まず蒼井優の存在感がいい。すごい美人とはいえないが光芒のようなものを放っている。
舞台となる竹富島の美しさはそれほど力を入れて描きこまれてはいないようにみえるが、そのさらっとした感じがむしろ好ましい。
東京にいってしまった母親から竹富島に住む少女に毎年届く手紙。しかし母親ははるか前に亡くなっており、手紙は生前に書かれたものだった。二十歳になった少女はその事実を知ることになる・・・。
ストーリーは奇をてらったものではない。作品のタイトルがすでに解題である。タイトルはニライカナイの概念の二重性(=死の世界と極楽浄土の世界)をよく理解した上で名づけられたと感じられる。
最近まで沖縄に住んでいた作家・池澤夏樹はオキナワ・カルチャー・アーカイブの中でニライカナイについて、
「(略)われわれの住むこの世界とは別の、もう一つの神々の国、あるいは異境。ティダやおなり神と並んで、沖縄や奄美大島など南西諸島の信仰の最も(もっとも)基本的な概念である。(略)
人が行くのではなく異境から神が来て現世の人々を救うという考えかたもあって、ニライカナイはもっぱらこちらの方なのだ。この種の神は来訪神(しん)と呼ばれる。神々は年(ねん)に一度そこからこの世界へやってきて、人々に福を授け、また帰ってゆく。これが南西諸島の宗教の基本型(けい)である。(略)」
と述べている。
毎年、誕生日になると黄泉の国から少女の届けられる手紙の物語は、こういう信仰の姿を念頭に創り出されたものだろう。
冷たい大都会・東京と小さくあたたかい島の対比は類型的だが、こういう単純化は分かりやすいし、南の島を旅先に選ぶ普通のひとびとの意識とも矛盾しないだろう。
私自身は死んだ父親がはるか南の海の彼方のニライカナイにいるとは感じられない。それほど遠くないどこかにいるが忙しくて会うことができずに何十年も経ってしまったというような感じがする。死の瞬間を見ているし、その後のプロセスを通じて死は確実に確認したはずだが、いつまでたっても死んだと思えない。
その後年を経るに従って周囲に死者が増えていった。私からそれほど遠くないどこかに彼らは立っているが、彼らもまた死んだとは思えない。彼らを意識すると不思議にやさしい気分になるのはなぜだろう。

[蒼井優(あおい・ゆう)]
1985年、福岡県出身。1999年、ミュージカル「アニー」でデビュー。2001年、「リリィ・シュシュのすべて」(岩井俊二監督)、2002年「害虫」(塩田明彦監督)、2003年「1980」(ケラリーノ・サンドロヴィッチ監督)、2004年「花とアリス」(岩井俊二監督)、「海猫」(森田芳光監督)などに出演。
[竹富島]
石垣島の南西にあり周囲約9.2km、人口約300人。
竹富町観光協会
[ニライカナイ]
オキナワ・カルチャー・アーカイブにあるニライカナイの解説
by hatano_naoki | 2006-03-01 16:44 | 沖縄勉強ノート
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