定家にインスパイアされた安西均の詩「新古今集断想 藤原定家」が好きだった。
「それが俺と何の関りがあらう? 紅の戦旗が」 貴族の青年は橘を噛み蒼白たる歌帖(カイユ)を展げた 烏帽子の形をした剥製の魂が耳もとで囁いた 燈油は最後の滴りまで煮えてゐた 直衣の肩は小さな崖のごとく霜を滑らせた 王朝の夜天の隅で秤は徐にかしいでゐた 「否(ノン)! 俺の目には花も紅葉も見えぬ」 彼は夜風がめくり去らうとする灰色の美学を掌でおさへてゐた 流水行雲花鳥風月がネガティヴな軋みをたてた 石胎の闇が机のうへで凍りついた 寒暁は熱い灰のにほひが流れてゐた 革命はきさらぎにも水無月にも起らうとしてゐた。 ・・・堀田善衛「定家明月記私抄」を再読しよう。
by hatano_naoki
| 2006-05-22 23:41
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