昨日は沖縄慰霊の日で、TBSの「NEWS23」では沖縄特集をやっていた。北中城の旧中村家住宅からの中継はちょっとなつかしかった。この特集では沖縄戦のとき、米軍が展開した心理戦、具体的にはビラまき作戦と、それが与えた影響についてやっていて、番組中では米軍が沖縄県民の心理分析をしたうえで心理戦を進めたこと、その核心は沖縄は日本とは違うという考え方だったこと、米軍は1950年代まで日本と沖縄の心理的分断を図り、それは成功していたが冷戦の進展とそれによる沖縄の基地の恒久化の流れの中で破綻し、沖縄は日本復帰を指向するようになったことなどを述べていたと記憶している。沖縄における米軍の心理戦というテーマを面白く感じたのでちょっと調べてみると「沖縄戦下の米日心理戦」という本に行き着いた。著者は元沖縄県知事で現参議院議員の大田昌秀。そこでこの本を探し出して斜め読みしてみると、「NEWS23」の特集の大半はこの本の受け売りであるらしかった。テレビも意外と安易なことをやっている。
著者の大田は1925年生まれ。沖縄戦では鉄血勤皇隊(中学生によって学校単位で組織されて軍の指揮下で活動し、多くの戦死者を出した)に属して実戦に参加した。そこで情報戦の現場に接して興味を持ち、戦後長い時間をかけて当時の情報戦の実態を調べ上げた。 大田の記述から類推すると、米軍が沖縄で心理戦を展開したのは沖縄上陸作戦にいたる過程で硫黄島などで多くの戦死者を出したためで、その目的は米軍の戦死者を最小限にとどめるためだったらしい。「NEWS23」でも触れていたが、米軍は上陸作戦開始以前から沖縄について研究しており、彼らの分析はおおよそつぎのようなものだった。 1)沖縄人を日本のマイノリティ・グループとして位置付ける。 2)沖縄人と内地人には心理的亀裂が潜在している。 3)沖縄人に本土の日本人から長年にわたって虐げられてきたという歴史を認識させ、沖縄人としてのアイデンティティを自覚させて日本軍から離反させうる。 4)沖縄人は日本本土の文化に比べて自らの文化をおくれていると考え、劣等感をもっている。 もちろんこうした分析は軍人が行ったのではなく文化人類学者が関与した。米軍はこの分析をもとに「沖縄人と軍部の亀裂を深める」ことから心理作戦をスタートさせたという。 800万枚ともいわれる大量のビラが撒かれたが、作戦初期には本土出身兵士と地元住民の離反をねらい、住民にはこの戦争で沖縄県民が本土の犠牲になっていることをアピールした。次の段階(4月10日~6月10日頃)では投降した捕虜がビラ作成を手伝うようになり、またイラストの効果が確認されたという。最後の段階では投降の呼びかけが行われた。この段階では音声(人間の肉声)による呼びかけが大きな効果をあげたという。作戦は最後の段階ではビラの内容もふくめて情緒・感情に訴えるようになっていった。 ビラ作戦がどの程度の効果をあげたかは評価しにくいものの、沖縄戦での投降は他地域に比べて格段に多かったとされる。 ところで、もしかするとこの本のもっともすばらしい部分は文末の「むすびに代えて」かもしれない。大田は「ヒロシマの真実を再訪する」(ロバート・J・リフトン、グレグ・ミッチェル著)の中の「(原爆投下と)自分たちが品格のある人間であるという感覚を調和させるのは、いつの時代にも容易なことではなかった」ということばを紹介している。そう、原爆の投下はアメリカ人を本質的に深く傷つけ、その傷はいやされていないし、おそらく今後もいやされることはない。これは日本にとってアジアとの間でくすぶるこのあいだの戦争のけじめの問題に似ているかもしれない。いずれにせよ、あいまいにしてきたことがボディブローにように効いてきている。
by hatano_naoki
| 2006-06-24 22:51
| 沖縄勉強ノート
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