カンボジア人の文化人類学者、アン・チュリアンさんが日本にやってきた。京都に半年ほど滞在するということだ。
『キリング・フィールドへの旅』にも書いたけれども、この人物とわたしは深いかかわりがあるとはいえないが、少なくとも私の側には彼を大切に思う動機と理由がある。この人物とすごした時間は短かったが、そのいずれもが印象深くわたしの記憶に残っており、カンボジアをもうすこし深く知ろうとわたしを駆り立てる原動力のひとつになってきた。 しかしいまやわたしを取り巻く環境は苛酷な旅を許してくれないようでもあり、あるいはわたしは二度とかの地を踏めないような気さえする。わたしのカンボジアは終わったか?それはなんともいえないけれども、すくなくとも容易な道ではなくなった。それでもできることがあるような気がする。 カンボジアに関して、わたしが見てきたこと考えたことをこれまでに十分に表現していたかといえばそれはそれは不十分だと答えざるをえない。つまりカンボジアを契機とする表現と行動が不全なのだ。 わたしはなにができるのだろうかと、考えるでもなく考える。書き考えるにあたってのわたしのリソース、つまりわたしにおける一次情報とは、要するに短い旅の繰り返しの中で出会った光景の累積でしかない。それを書き留めればいいのだろうか。たぶんそれしかないのだろう。それはいいかえれば旅行者の視点にとどまるということで、わたしのカンボジア体験の限界を指し示す。 だがそれが限界であるのなら、極限にまで追い詰めればいいともいえる。捨て身の攻撃というわけだ。 アン・チュリアンさんは京都にいる。わたしはいずれ彼に会いに京都にいくつもりだ。そのときわたしたちは瓢亭かどこかの座敷に行き、あさがゆを食べながらさほど深みのない対話を再開するだろう。そのとき彼が新たな方向にわたしを導くかどうか、それはわたしにはわからない。
by hatano_naoki
| 2008-05-06 08:38
| カンボジア
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