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『グローバルな規範/ローカルな政治』
『グローバルな規範/ローカルな政治』_d0059961_2113936.jpg『グローバルな規範/ローカルな政治』の一編、「パリ和平協定後のカンボジアにおける『民主化』の検討」(山田裕史著)を読んだ。
この本は上智大学出版から出ていて、地域立脚型グローバル・スタディーズ叢書の一冊ということになっている。内容は二部構成で、第一部が「グローバル化の中の民主政治」、そして第二部の「民主主義はグローバルな規範なのか?」の冒頭が本稿だ。
世界を見渡してみるといわゆる西欧型民主主義はそれほど成功していない。われわれが意識することなく標準として受け入れてきた西欧型民主主義が追い求めるべき国家像であるのかどうか、さまざまなかたちでの異議申し立てが顕在化しているなかで、疑問が拡大しているというのがわたしの個人的な状況だが、本書のタイトルはなかなか示唆的だ。それはおそらく国ごとの状況の多様性を見ずしてステレオタイプの民主主義像を語ることの危険性を指摘しているのだと思うのだが、カンボジアについてもその民主主義的な装いの内実がどのようなものであるのか、それほど知られていないのだと思う。
非民主主義的な体制は民主主義的な体制の前段階であり、一種のポイント評価システムによって、どれだけ状況が「改善」されて民主主義に近づいたかが測られる、そういう考え方を自然に受け入れてきた。民主主義が到達すべき歴史の必然だというような意識。ところが実際には非民主主義的体制は世界にあまねく存在し、西欧型民主主義のほうに接近してくるのではなく、今まで見たこともないような社会を作り始めているようなのだ。
カンボジアがおだやかな民主主義国家だと感じて、あるいはそういう具体的な用語では意識しないにせよ独裁的で専制的な国だとは感じずに、つまり体制に批判を持たないで帰ってくる旅行者は多数を占めるだろう。では実際はどうなのか?
カンボジアの「民主主義」の実体とはなにかということについて、著者の分析はわかりやすい。ポルポト政権時代からベトナム支配、UNTACの暫定統治を経て現在にいたる長い時間を生き延びてきただけでなく、ますます権力基盤を強化しているようにみえる一群の支配的グループと、彼らが操縦してきたカンボジア人民党の体質と構造についての研究は多くはないらしく、その意味でも本稿は現代のカンボジアを理解する上で大切な情報となると感じた。

地域立脚型グローバルスタディーズという概念は、「刊行にあたって」の短い文章からみるかぎり欧米主導の従来のグローバルスタディーズに対する批判と反省から出発しているらしく、「『地域』の人びとの立場からグローバル化に向き合」う」というのが基本的な姿勢だという。
本書の構成はつぎのようになっている。
第1部  グローバル化のなかの民主政治
 現代日本の「ナショナリズム」とグローバル化(中野晃一)
 新自由主義改革の政治分析(三浦まり)
 食の安全をめぐる政治(早川美也子)
 EUと国民国家のデモクラシー(河崎健)
第2部  民主主義はグローバルな規範なのか?
 パリ和平協定後のカンボジアにおける「民主化」の再検討(山田裕史)
 グローバル・スタンダードとしての民主主義(岸川毅)
 ポルトガルにおける民主化と欧州統合(西脇靖洋)
 南アジアにおける女性の政治参加とグローバル化(北川将之)
by hatano_naoki | 2008-11-30 02:19 | カンボジア
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